更新日:2019-10-30

【獣医師監修】写真で判別する「皮膚疾患」〜代表的な5つの病気〜

【獣医師監修】写真で判別する「皮膚疾患」〜代表的な5つの病気〜

犬にとってもその家族にとってもストレスの原因となる病気が皮膚病です。
なかでも痒みを伴う皮膚病は、常にその痒みに苛まれる辛さだけでなく、脱毛や患部を掻くことで皮膚を傷つけそこから炎症や感染を引き起こすなど、別の症状を誘発することもあります。また、同じ場所で寝ている家族も、その子の痒みのせいで寝不足になることも少なくありません。現在犬や猫がかかる皮膚病の種類は実に400種以上もあると言われ、その中でも犬の痒みを伴う皮膚病で多いのが以下に説明する5つの皮膚病です。その中には簡単に治るものから、完治が難しく生涯付き合っていかなくてはならないものもあり、いずれにせよ獣医師の診断に基づいた正しい対処と治療が不可欠なのです。
(監修 泉南動物病院 横井愼一院長)

[1]犬アトピー性皮膚炎

犬アトピー性皮膚炎は原因が完全に解明されていない病気です。

犬の中には遺伝的にこの病気になりやすい犬種が存在し、代表的なのは柴犬やフレンチ・ブルドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ゴールデン・レトリバーやラブラドール・レトリバー、シーズー、ヨークシャー・テリアなどです。

犬アトピー性皮膚炎は主にハウスダストマイト(チリダニ)が原因抗原(アレルゲン)として、バリア機能障害のある皮膚から侵入し、それらに対して免疫が過剰に反応することで、強い痒みを伴うと考えられています。

初発が3才以下である、ステロイド剤で痒みが治まる、左右対称の痒みがある、症状に季節性があるなどを基準に診断されます。

この病気は生活環境の中に原因があることから完治が難しく、獣医師と相談しながら生涯に渡って治療を行う必要があります。

 

▼アトピーを患った犬の写真

①お腹(柴犬)

犬,皮膚病

②顔周り(柴犬)

犬,皮膚病

■主な症状

・しつこい痒み

患部を舐める、噛む、引っ掻く、床や壁などに擦り付けるなどの痒みを表す症状を見せ始めたら注意をしてください。症状が出やすいとされる部位は、肌と肌が擦れやすい脇の下や股、指の間、お腹周り、耳や顔などが好発部位で、左右対称に症状が出ます。

■治療法

いくつか種類があり、基本的には投薬と薬浴やシャンプーといったスキンケアを併用するのが一般的です。なお、治療法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、獣医師が犬の症状や性格、家族のライフスタイル、予算に合わせた治療をご家族と話し合いながら行います。

 

・ステロイド(副腎皮質ホルモン)

即効性に優れており有効性が高く安価な内服薬です。犬アトピー性皮膚炎の治療では最も処方されている薬で、適切に使用することで痒みや炎症をいち早く止めてくれる効果があります。一方、長期投与で肝臓への負担や免疫力の低下といった副作用があり、投薬を止めると再発します。

 

・減感作療法

アレルギーの原因となるアレルゲンを少しずつ投与することで、免疫が過剰反応しないよう体を慣れさせる治療法です。犬アトピー性皮膚炎で唯一の根本的治療として期待されています。人間でもアレルギーに対してこの治療法が浸透しつつあり、スギ花粉症に対する減感作療法の薬が保険適用となっています。ただし、動物に減感作療法を行う場合、開始時に検査が必要となるほか、実施できる病院が限られています。また、徐々にその濃度を上げたアレルゲンを皮下注射によって複数回に分けて投与するため、定期的な通院が必要です。

 

・シクロスポリン

人の腎臓移植で使用される免疫抑制剤です。免疫抑制剤と聞くと少し怖く感じられるかもしれませんが、副作用は投与初期に起こる軽い消化器症状程度です。長期に投与しても大きな副作用はありませんが、難点はカプセルが大きく飲ませにくいこと。皮脂や汗の多い症例には、アポキル錠より効果があることも。

 

・犬インターフェロン製剤

犬専用に作られた免疫バランスを整えることで痒みを止める効果のあるインターフェロン製剤です。副作用はありませんが、効果が出るまでに時間がかかる他、注射のために多くの通院が必要です。

 

・アポキル錠(オクラシチニブ)

犬アトピー性皮膚炎の治療薬として2016年の7月から日本で発売されている分子標的薬です。痒みを感じる伝達物資(サイトカイン)に必要な酵素の働きを阻害し、その経路をブロックすることで痒みを起こさせないようにします。アポキル錠はステロイドなど従来のアレルギー薬と比較し長期投与しても副作用が少ないですが、長期投与での報告はまだ少ない状況です。痒みを止める速さや効果はステロイドと同等だとされています。デメリットは、価格がステロイドと比べ高価だという点です。

 

・サイトポイント(ロキベトマブ)

2019年12月に発売される新薬です。サイトポイントは痒みのサイトカインIL31そのものを標的とし、結合して除去するモノクロナール抗体製剤です。アポキルと比べ、よりピンポイントに痒みの原因そのものに直接効くので、副作用はほぼありません。また、月1回の投与で痒みが止められるので家庭での投薬の必要もありません。年齢制限や併用薬の制限などはなく、これからの犬アトピー性皮膚炎の主役の薬として期待されています。

 

・外用療法

ステロイドの外用薬、保湿系シャンプー、保湿剤などのスキンケアも上記の治療に組み合わせることで減薬することができたり、さらなる症状の改善が期待できます。

 

アトピー性皮膚炎の治療は、単一の治療法ではなく、難治性の症例ではその犬に応じた治療法を複数合わせて行うことが多いです。獣医師と上手にコミュニケーションを取りながら、ご家族とその犬に最適な治療法を探してあげましょう。

[2]食物アレルギー

犬の食物アレルギーは食物有害反応の中の一つの症状であり、症状は多彩です。

特定の食べ物(主にタンパク質)や食品添加物に対する過剰な免疫反応により、皮膚の痒みなどの皮膚症状、嘔吐や下痢といった消化器症状を引き起こします。

またアトピー性皮膚炎と併発している症例も少なくありません。

 

▼食物アレルギーを患った犬の写真

①顔周り(トイプードル)

犬,皮膚病 

 

②前足(トイプードル)

犬,皮膚病 

 

③耳(トイプードル) 

犬,皮膚病

■主な症状

・皮膚炎や痒みの発症、下痢や嘔吐

通年性に症状を認めます。顔(主に口の周り)や肛門周辺、腰背部に皮膚炎や痒み、慢性的に嘔吐や下痢を繰り返すなどが主な症状。食物アレルギーの場合、食べ物が皮膚に触れる口周りや排泄を行う肛門周辺の皮膚炎が顕著です。

■治療法

ステロイド、アポキル等の痒み止めも効果が乏しく、原因となる食品を口から入るのを止めないと症状の回復が見込めません。そのため獣医師の指導のもと、病院で処方される特殊なフードと水のみを約2ヶ月間与える方法(除去食試験)で原因となる食品を除去することが重要です。

 

・除去食試験

食物アレルギーを防ぐには、獣医師の指導のもとで徹底した食事管理を行うことが必須となります。基本的に一度アレルゲンとなった食物は一生アレルゲンであり続けるため、療法食も生涯続ける必要があります。なお、食事療法食を開始し、治療を開始してから効果を得られるまで2ヶ月は処方された食事と水以外一切与えてはいけません。こういった食物アレルギーを持つ犬のためにタンパク質を限定した療法食は「除去食」と呼ばれ、最近では免疫システムが反応しにくくなるようタンパク質を小さな分子に加水分解された加水分解食や、カンガルーやエミューの肉といった、過去に食べたことがないタンパク質で作られた新奇タンパク食など、食物アレルギーに対してリスクの低いフードも多く販売されています。

 

食物アレルギーが起きないようにタンパク質を特殊加工したフードなどは一般店やネットショップで発売されている低アレルギーフードとは異なるため、必ず獣医師に相談してから選んでください。なお、療法食を与えている際にはオヤツなどは絶対与えないよう家族全員で注意し、決められた食事のみを続けることが大切です。

[3]膿皮症

細菌感染による皮膚病を総称して膿皮症と呼び、痒みは強いものの適切な治療で一般的には1ヶ月程度で治すことができる皮膚病のひとつです。

犬に起きる膿皮症の原因は犬の皮膚に常在しているブドウ球菌が異常増殖することが原因で、それには皮膚の免疫機構の異常や内分泌系の疾患、アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の続発症が挙げられます。

▼ブドウ球菌

犬,皮膚病

これ以外に、外傷によるものや間違ったお手入れ(シャンプーのしすぎや強いブラッシングなど)で肌を傷つけることも一因となるため、間違った日々のスキンケアが膿皮症を引き起こすきっかけとなることもあるのです。

 

▼膿皮症を患った犬の写真

①お腹(フレンチブルドッグ)

犬,皮膚病

■主な症状

・湿疹、痒み、赤み、脱毛、フケ、膿疱、丘疹(赤みのあるブツブツ)

膿皮症は湿度が高い梅雨や夏場にかかりやすく、全身の皮膚で起こります。

最初は丘疹という小さな赤い湿疹から始まり、次第に同心円状に広がります。患部を舐めたりひっかくことで状態が悪化し、重症になると皮膚の深い部分で感染が起こり、全身状態の悪化につながるケースも。特に特定の犬種がかかりやすいわけではなく、長毛種・短毛種、年齢を問わずかかる病気です。

■治療法

膿皮症の治療は症状の重症度によって「外用療法」と「全身療法」に分けられ、症状が出ている部位が限定的で、症状が軽く早い段階で膿皮症と分かった場合には、抗生剤の外用薬や抗菌シャンプーを用いて治療を行います。一方、外用療法で効果が得られにくい場合、全身に膿皮症の症状が出ている場合などは、抗菌薬を投与する治療法をとるのが一般的。内分泌系の疾患、アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎、内分泌疾患が原因として起こっている場合は、基礎疾患を治療することが重要です。

 

・外用療法

殺菌の増殖を抑制する薬用の抗菌シャンプーでの薬浴を週に2〜3回行います。また、クロルヘキシジンの消毒薬を使用するのも有効です。

 

・全身療法

ブドウ球菌に有効な抗菌薬を3週間以上投与します。膿皮症は早期の発見や適切な治療で完治できるものの、難治性、再発性の場合は基礎疾患がないか再検討が必要です。近年、薬剤耐性菌が数多く認められるため、抗菌薬が無効な場合は、薬剤感受性検査に基づく抗菌薬の選択が推奨されます。

 

再発防止には適切な薬用シャンプーを使用して定期的にシャンプーすることが重要ですが、洗いすぎやすすぎ残しに要注意。皮膚や被毛が乾ききっていないまま放置することも原因のひとつとして考えられます。なお、薬用シャンプーは使い方にコツがあるため獣医師の指導を受けた上で行うほか、使用するシャンプーの種類と頻度も症例によって異なります。また、日々のブラッシングは大切ですが、スリッカーブラシなどの肌を傷つけやすいブラシを使う際には注意が必要。愛犬の毛の密度が濃く毛足が長いほど皮膚の状態が分かりづらいので、常日頃から肌チェックを行いましょう。

[4]マラセチア皮膚炎 

マラセチア皮膚炎は、耳や口、肛門などに元々常在しているマラセチアという真菌(カビ)によって引き起こされる皮膚炎のこと。

マラセチアは常在細菌であるため犬の免疫力や皮膚状態が健康な場合は何も問題は起きませんが、免疫力や皮膚状態に異常が出た場合にトラブルを起こします。

▼マラセチア

犬,皮膚病

マラセチア皮膚炎になりやすい好発犬種は、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、マルチーズ、チワワなど、生まれつき肌が脂っぽい犬種が挙げられます。

発症しやすい季節としては梅雨時期など温度と湿度が高い季節に悪化することが多く、膿皮症と同様、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎に続発して起こることも少なくありません。

診断は犬種や症状、匂い、患部にテープを当てて皮膚を採取し、マラセチアの数を顕微鏡で確認することで診断を行います。

 

▼マラセチアを患った犬の写真

①お腹(シーズー)

犬,皮膚病

■主な症状

・激しい痒み、皮脂が大量に分泌される脂漏症、独特の匂いがするフケ、外耳炎。

マラセチアの感染症は皮膚炎と外耳炎の症状に分けられ、皮膚の場合は目や耳、口の周りといった濡れやすい部位、脇の下や指の間、足の付け根や鼠蹊部に症状が出ることが主です。患部の皮膚にはカサつきやベタつきがあり、脂漏臭という独特な臭いを伴います。長引くと脱毛や皮膚の肥厚が認められることもあります。一方、外耳炎の場合はしきりに頭を振るようになったり耳の辺りをよく掻く、耳垢が増えたり腫れて触られるのを嫌がるようになります。

■治療法

マラセチア皮膚炎の治療は、週に23度程度薬用シャンプーで洗うこと、抗真菌作用のある内服薬を投与するのが一般的です。状態にもよりますが最低1ヶ月程度の治療期間を要し、外耳炎の場合は内服薬に加え点耳薬が処方されます。アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の続発症の場合は、基礎疾患を治療することが肝要です。

マラセチア皮膚炎は犬種、体質によっては再発しやすい病気であり、予防には定期的なシャンプーが不可欠です。なお、薬用シャンプーは使い方にコツがあるため獣医師の指導を受けた上で行ってください。また使用するシャンプーの種類と頻度は症例によって異なります。愛犬の皮膚状態にあった最適なシャンプーの種類と頻度は獣医師と相談しましょう。

[5]毛包虫症(ニキビダニ症)

毛包虫症とはニキビダニと呼ばれる体長0.20.3m程度の細長い形態の寄生虫が原因となって起きる皮膚病で、毛根を包んでいるも毛包に寄生することから毛包虫症とも呼ばれます。

▼毛包虫

犬,皮膚病

(Rarin Lee/shutterstock)

このダニは人や犬の健康な皮膚にも常在していますが、通常悪さをしません。

病気は一般的に免疫力の低下した仔犬や老犬に多く認められます。

診断は顕微鏡を用いなければ確認できないほどのサイズで、滴下タイプのダニ予防薬で駆除することはできません。

 

▼毛包虫症(ニキビダニ症)を患った犬の写真

①背中(ブルドッグ)

犬,皮膚病

■主な症状

・脱毛、感染と痒み、赤み。二次感染が起きると出血や化膿、痒みを伴う。

目や口の周辺、前足などが特に感染しやすく、初期は特に痒みを伴わない脱毛が見られます。脱毛を放置しておくとニキビダニが増殖し、膿疱が発生し皮膚のただれに繋がります。また、二次感染が進行すると痒みが強くなる傾向に。脱毛を認めた場合、毛包虫症も視野に入れて診察を受けることが重要です。

■治療法

現在、治療法の中心はイソオキサゾリン化合物が含有されている内服タイプのノミ・ダニ予防薬を定期的に服用する方法が最も有効とされています。膿皮症を併発している場合などは抗菌薬の投与も必要です。

 

・イソオキサゾリン系化合物含有ノミ・ダニ予防薬

ブラベクト錠やネクスガード、シンパリカといった動物病院で扱っているノミ・ダニ予防薬が毛包虫症に効果があり、完治後も定期的に服用することで再発予防としても処方されます。

 

毛包虫症は完治可能な病気ではあるものの、投薬を中止すると再発の可能性が高く、根気強く治療を行う必要のある病気です。治療をせずに放っておくと最終的に全身の皮膚が深部まで感染した状態になるため、早めの治療が鍵となります。

監修医・横井愼一(よこいしんいち)院長より

犬,皮膚病

今回取り上げた皮膚病以外にも、その他の痒みを伴う皮膚病として「疥癬症」「ノミアレルギー」があります。

これらはいずれも外部寄生虫であるノミ、疥癬の感染によって起こるものですが、適切な駆虫薬を投与することで比較的簡単に治療することができます。

皮膚病の治療にあたっては自宅での投薬やシャンプー、環境整備など、ご家族の協力が不可欠となります。

担当の獣医師と良好なコミュニケーションを取りながら、大切な家族の一員の苦痛を取り除いてあげてください。

この記事が、皮膚病で悩まれているワンちゃんとそのご家族の一助になれば幸いです。

 

 

記事監修

横井愼一(よこいしんいち)院長

一般社団法人 日本皮膚科学会理事 認定医

一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム幹事

大阪府堺市出身。北里大学を卒業後、堺市内の動物医療センターにて小動物臨床に従事し1995年に泉南動物病院を開院。20195月に病院を移転し、屋上ドッグランやトリミングサロンを備えた複合型の動物病院へとリニューアル。地域のみならず、遠方からも皮膚疾患の治療を求める患者が多数来院する。

 

監修書籍「専門医に学ぶ長生き猫のダイエット-関節炎、糖尿病、膵炎、ストレス 肥満が起こす多くのリスクを解消-

 

病院DATA

犬,皮膚病

泉南動物病院

大阪府泉南郡熊取町紺屋2-1-3

072-453-0298

受付時間 9:3012:3016:3019:30

*院長の皮膚初診枠は1時間、完全予約制。

HP http://www.sennan-ah.com/

年中無休 日曜・祝日は午前中のみの診察

  • Petowa編集部
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