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世界一有名なカリスマ・ドッグトレーナー
シーザー・ミランをよく知らない方も、名前だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。
彼は世界一有名といってもいいくらいのドッグ・トレーナーで、数々の書籍、ビデオ、テレビ出演など、華々しい活躍をしています。
彼は何人ものドッグ・トレーナーをもってしても矯正不可能だった問題犬をいなし、従順にさせることに成功してきました。
メディアではそれを少々エンターテインメント的に過剰な演出で取り上げてきましたが、シーザーの本質は「飼い主の意識を変える」というところ。
犬の問題は飼い主の問題で、飼い主が意識改革をすることこそが問題解決の第一歩である、と。
シーザーの成功はその独特なドッグトレーニング・スタイルにあらわれています。
彼は豊富な知識と経験をフル活用して、「ドッグサイコロジー」という概念を生みました。
これは人間の視点ではなく、犬の視点から犬の行動を理解し説明する、というもの。
それによって犬と人のコミュニケーションを円滑にする方法でした。
「犬をリハビリし、人間を訓練する」というシーザーの言葉が有名ですが、これこそがドッグサイコロジーを端的にあらわすものです。
犬というものが本来どういう動物であるのか。
その命題を深く追求して体系化し、ドッグトレーニングの新しい潮流を生み出したのがシーザー・ミランです。
犬の散歩を重要視するシーザー・ミラン
(4 PM production/shutterstock_)
タイトルにあるように「人と犬との絆の9割は散歩によって築かれる」と、シーザー・ミランは言いました。
興味深い発言ですが、これはどういうことでしょうか。
その前に、シーザーが述べた「犬のおきて」を知っておきましょう。
1.犬は本能の動物だ。
2.犬はエネルギーがすべてだ。
3.犬はあくまで動物だ。犬種や名前はその次の話。
4.犬は感覚で現実を理解する。
5.犬は社会的動物である。
この5つのおきては、破られることはありません。
どうにも変えようがない(変える必要のない)犬の本質そのものだからです。
シーザーはまずはこのことを覚えておいてほしい、といいます。
「犬がまだ野生動物だった時代から、何千年もかけて自然が編みだしてきた5つの原理」であり、それを変えてしまうのは自然に反するだけだ、ということです。
そのことを踏まえて「人と犬との絆の9割は散歩によって築かれる」というシーザーの言葉を考えていきましょう。彼はこう述べています。
「飼い主と犬がともに参加できる活動のなかで、最も大切なのが散歩だ。散歩は犬にとって運動になるだけでなく、精神的な刺激も得られる」
散歩は運動不足解消とか、ストレス発散のために行く、などと考えている飼い主は多いかと思います。しかし、散歩はそれだけにとどまるものではありません。
「時間をたっぷりかけて散歩をさせることは、犬を運動させ、バランスを保つ唯一で最善の方法だ。また散歩は、飼い主がパック・リーダーとして存在感を示す機会でもある。だから1日に少なくとも2回は散歩に出て、犬の体力を発散させ、穏やかで従順な状態を保てるようにしてやろう」
シーザーは「パック・リーダー」という言葉をよく使います。
「パック=群れ」という意味で、パック・リーダーとは文字通り「群れのリーダー」ということです。シーザーはこのパックリーダーになれ、とわたしたち飼い主に言います。
そして散歩こそが人と犬とのコミュニケーションを盛んにする、よい機会なのだと。
犬を自分の横につかせて歩かせるリーダーウォークのトレーニングはパック・リーダーの存在感を示すことになるし、さらにはご褒美の時間として設定する「遊び」まで組み込むことができる。
あちこちを嗅ぎ回ったり、ボール遊びをしたり、ときには休憩時に甘えさせたりして、密度の濃い時間を共有できるのが、散歩なのだということです。
犬の散歩はただのルーティンではなく、工夫してコミュニケーションをとるものだ、という考え方はまさに現代の最先端の思考と言えます。
しかし、よく考えてみると、それこそがベーシックなのではないか。いにしえから人と犬の共生はそのような交接があって、絆というものを生み出したのではなかったか。
わたしたちはいつしかこのせわしない日常に追われて、犬との絆を失いそうになっていたのかもしれません。
シーザー・ミランの「人と犬との絆の9割は散歩によって築かれる」という言葉は、犬と暮らすわたしたちの生活をもう一度見直す、という意味でもすばらしいものではないでしょうか。
シーザー・ミランの言葉
シーザー・ミランにはそのような心を揺さぶる数々の言葉があります。
わたしたちは犬との生活に具体的な方法論ばかりを求めがちですが、一歩引いて、シーザーのこのような言葉たちを素直に感じることが必要なのかもしれません。
「犬の問題ではないのです。常に問題になるのは我々なのです。常に飼い主なのです。犬が健康に育ち、犬らしくあることのできる環境や境遇を作るのは我々の責任です」
この言葉はまさにシーザーの考えとその精神をあらわしています。犬のすることは、すべて犬のせいである、というわけではない。わたしたちの暮らしに犬がいるのであれば、その暮らしを運営するわたしたちにすべての責任はあるのだと。
「穏やかで毅然としてください」
シーザーはこういう言い方がとても上手ですが、それ以上に核心をついているから、わたしたちの心に刺さるのかもしれません。もちろんこれは犬との対峙のことですが、どんな関係にも言えるのかもしれませんね。
「あなたの犬にとって、この世界にいるべき場所はひとつだけ。群れに属していたいという犬の欲求を尊重してあげよう」
群れに属するうえで大切なことが自然にできれば、それは「生きやすい」ということです。私たちと暮らす犬たちに「安心」を感じてもらうために、どのようなことができるか、考えていきたいですね。
「犬が教えてくれるのは、毎日が今を生きるチャンスだということ」
いつでも「今」なのだ、ということを忘れがちなわたしたちは、犬に教えてもらうことのほうが多いかもしれません。犬は今を生きています。もちろんわたしたち人間もそうなのですが、犬は過去を振り返ってくよくよしたり、悩んだりしません。いつだって新たに「更新」できている犬たちのすごさを見習いたいものですね。
そしてあるテレビ番組でのインタビュー。
意地の悪い質問に、こんなやりとりがありました。
「あなたが犬をリハビリし、飼い主を訓練し、撮影終了した後でも、問題が解決しない場合は?」
「その犬に責任はありません」
そっけなく聞こえそうなシーザー・ミランの返答に、なにか深くて強い意思を感じませんか。犬に責任はない。そもそも犬に責任などないのだ、と。
これは人間的な情緒を超えた、自然科学的なありかた、のようなものが存在しているような気がします。
シーザー・ミランのオススメ書籍
数あるシーザー・ミランの書籍のなかでも、特にオススメといえるのが「ザ・カリスマドッグトレーナー シーザー・ミランの犬と幸せに暮らす方法55」(日経ナショナルジオグラフィック社)でしょうか。

出典:Amazon
これは冒頭に出てきた「犬のおきて」のことが掲載されていて、たとえば「犬はエネルギーがすべてだ」の文章は思わず膝を打ちたくなるような気づきに満ちています。
「エネルギーでコミュニケーションをとる」という考えを、実体験を入れ込みながらわかりやすい文体で書いてあるので、シーザー・ミランの世界に初めて足を踏み入れるなら、うってつけの本だと思います。
犬との暮らしをよりよくするために、ぜひあなたもシーザー・ミランの思想に触れてみてください。きっと新しさにわくわくする、すばらしい体験になりますよ。
▼購入リンク
「ザ・カリスマ ドッグトレーナー シーザー・ミランの犬と幸せ に暮らす方法55」(日経ナショナルジオグラフィック社)
引用・参考/「ザ・カリスマ ドッグトレーナー シーザー・ミランの犬と幸せ に暮らす方法55」(日経ナショナルジオグラフィック社)
「ザ・カリスマドッグトレーナー〜犬の気持ちわかります〜」(ナショナルジオグラフィックチャンネル)「あなたの犬は幸せですか」(講談社)